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山形国際ドキュメンタリー映画祭2023の思い出 | フィルムライブラリー

03.12.2025

 映画祭を一日休み、バスに乗って山形ドキュメンタリーフィルムライブラリーを訪れた。ここは過去に山形国際ドキュメンタリー映画祭に出品された2万本近くの映画を見ることができる施設だ。それも驚くことに無料で。映画祭に選ばれた作品だけでなく、出品された作品というのがおもしろい。だから2021年の映画祭で日本プログラムに選ばれた自作『私はおぼえている』も見られるが、コンペに落選した『影の由来』もここでは見られる。今の所、公の場所でこの二作が見られるのはここだけだ。

 フィルムライブラリーを訪れた理由は、ロバート・クレイマー監督『ルート1』を見るためだった。上映時間4時間15分のこの映画を一日かけてじっくり見ようと思っていた。
 ロバート・クレイマーを知ったのは座・高円寺ドキュメンタリー映画祭で、諏訪敦彦監督がセレクションしたクレイマーの『アイス』を見た時で、16ミリフィルムでの上映だった。しかし作品のことはほとんど覚えていない。それよりも諏訪監督が語るクレイマーとの思い出の方が印象に残っている。それは諏訪監督の故郷広島をクレイマーもいつか撮りたいと思っていたという話だった。おそらく諏訪監督が、広島を題材に映画を作ろうとしている時のことだったと思う。クレイマーが広島を撮りたかったのは、父親が太平洋戦争に従軍していたことも関係していたような気がするが、この辺りの記憶はおぼろげだ。それよりも話の最後に「子供を育てながら映画を作るのは非常に大変なことだが、お互いにがんばろうと励まし合いました」と言われたのをはっきりと覚えている。そしてその後、諏訪監督は『H Story』で広島を映画にし、次の『不完全なふたり』で夫婦を、その次の『ユキとニナ」で子供を撮った。そのフィルモグラフィーはいつもその時の監督の人生が投影されていたのではないかと想像する。今父親となった自分は、ふたりが子育てをしながらどう映画制作と向き合っていたのか、その時交わした会話を聞いてみたいと強く思う。

 『ルート1』の前半を見終え、2枚目のDVDを見始めた時、ライブラリーの貸し出しカウンターから話し声が聞こえてくる。声の主の老齢の男性は興奮気味で、ヘッドフォン越しにもその会話は筒抜けである。
 「たまげたなあ、12回も繰り返し見せられるんだものなあ、ほんとたんまげた」と、DVDを止めてその感嘆の声に耳を澄ませると、どうやら映画祭で特集上映されている映画作家、野田真吉の『ふたりの長距離ランナーの孤独』について話しているようだった。その映画は1964年の東京オリンピックの男子マラソンで、歩道の一般男性が乱入してアベベ選手と並走し、やがて取り押さえられるまでの10秒ほどのニュース映像を、フリージャズの劇番を伴って繰り返し繰り返し繰り返すだけの映画だった。その繰り返しが12回かどうかは定かではないが、おそらくいわゆる実験映画を見慣れない男性には珍奇なものとして、心底肝を潰すたまげた映画として映ったのだろう。そして男性はさらに興奮を上乗せして続ける。
 「でもなあ、次の日に盆踊りの映画を見て気づいたんだ」と、肝を潰されながらもひるまず翌日も野田真吉の特集上映に足を運んだその心意気に感心しながら盗み聞きを続けていると、大興奮しながらこう捲し立てる。
 「気づいたんだ、盆踊りも繰り返しなんだよ、ずーっとずーっと繰り返してんだよ、同じ節で同じ踊りを繰り返してんだよ」と。
 男性の継いだ言葉に、ほんとたまげたのはこちらの方だった。野田真吉が盆踊りを記録した『生者と死者のかよい路 新野の盆おどり 神送りの行事』と『ふたりの長距離ランナーの孤独』は内容に関連はないし、制作年も30年近く隔たっている。関係のない映画を、繰り返しという一点で力強く連結させてしまうその直感はとても清々しく、思いもよらないものだった。そして野田真吉の作家論のどこにも同様の指摘は見当たらなかった。

 感覚をオープンにして、まずは映画を真に受けること。そうしないと映画を見て、自分の中で更新されたり変容するものなど何もない。『ルート1』の鑑賞を再開しても、盗み聞きした会話がずっと頭を旋回し、映画はあまり入ってこなかった。でも、このお爺さんのお陰で、映画を見るって個人的な感性に従って見るもんだという当たり前のことを思い出し、それだけでフィルムライブラリーを訪れた甲斐があったと思う。
 自分には映画より、映画の周辺のことの方が強く記憶に残るのかもしれない。

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